大分地方裁判所中津支部 昭和50年(ワ)1号 判決 1976年1月16日
原告
井上洋子
被告
三重野嘉雄
主文
一 被告は原告に対し金三三万三、〇六〇円およびこれに対する昭和四七年一一月二七日以降右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告の求める裁判)
被告は原告に対し金一五〇万円およびこれに対する昭和四七年一一月二七日以降右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言
(被告の求める裁判)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二請求原因
一 本件事故の発生
昭和四七年一一月二七日午後〇時四八分ごろ、被告は普通乗用自動車(以下「本件自動車」という)を運転して中津市街方面から耶馬渓方面に進行中、中津市上宮永二丁目四二六の一先交差点において、折から左側道路から同交差点を通過しようとした訴外増田幸範運転の車と衝突したため本件自動車は右側に突走り、自転車で右から左へ進行していた原告に衝突し、そのため原告は入院九四日間を要する前額部左側挫創、頭部打撲症、上顎前歯左側三歯上口唇内側挫創等の傷害を負つた。
二 被告の責任
被告は本件自動車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。
三 損害
(一) 入院雑費 三万七、六〇〇円
原告は前記の如く本件事故により九四日間入院したので、日用品購入費等として少くとも一日四〇〇円を要したから、その九四日分
(二) 付添費 七、五〇〇円
右入院期間中原告の母が三日間付添い、また小倉記念病院に精密検査のため母と姉が各一日付添つたが、右付添費を一日一、五〇〇円としてその五日分
(三) 逸失利益 一五〇万円
原告は本件事故当時久持病院に看護婦として勤務していたが、本件事故により昭和四八年二月末まで入院し、仕事ができないため同日退職し、その後昭和四九年三月末まで自宅療養をした。ところで右久持病院に勤務中原告は月額一万八、〇〇〇円の給料を得ていたので、その間の逸失利益は昭和四七年一二月から昭和四八年三月まで七万二、〇〇〇円(一万八、〇〇〇円の四カ月分)となる。しかして右久持病院の給与は非常に安く、通常見習看護婦の収入は月額四万七、三七〇円、賞与は年一二割であるからこれを基準にして同年四月から昭和四九年三月までの逸失利益を計算すると六六万三、一八〇円となる。また、原告は本件事故当時准看護学校に通学していたが、本件事故のため、卒業が二年間遅れた。右学校を卒業すれば、給料は月額六万五、〇〇〇円、賞与は年額四五割となる。従つて二年間卒業が遅れたことにより八九万七、七四四円(一年分四四万八、八七二円)の得べかりし収入を失つた。
以上の如く原告の本件事故による逸失利益は一六三万二、二九二円となるところ、内金一五〇万円を請求する。
(四) 慰藉料 一〇〇万円
原告は本件事故により、入院九四日、通院外科一七日、歯科九〇日、自宅療養一年を要する傷害を負い、そのため准看護学校の卒業が二年遅れたのであり、これら諸般の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を金額で慰藉するには金一〇〇万円が必要である。
(五) 弁護士費用 二五万円
原告は、本件訴訟を原告代理人に委任したのでその弁護士費用として二五万円必要である。
四 以上の如く、原告の損害は二七九万五、一〇〇円となるところ、原告は被告に対し内金一五〇万円およびこれに対する不法行為の日たる昭和四七年一一月二七日以降右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の答弁および主張
一 請求原因第一項、第二項記載の事実は認める。
二 同第三項(一)記載の事実は争う。
三 同第三項(二)記載の事実は争う。原告に対しては昭和四七年一一月二七日から昭和四八年一月四日まで職業付添婦が付添い、その費用八万一、五六〇円は被告において支払つた。
四 同第三項(三)記載の事実のうち、原告が久持病院に勤務していたこと、同病院を退職したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。原告が同病院を退職したのは昭和四八年三月末日であり、右退職までの給料はすべて同病院から支払われている。
五 同第三項(四)、(五)記載の事実は争う。
六 原告は自賠責保険から治療費、付添費とは別に合計五二万四、七〇〇円を受取つたので、右損害額から控除すべきである。
第四被告の主張に対する原告の答弁
原告が被告主張の額を自賠責保険から受取つたことは認める。
第五証拠〔略〕
理由
一 請求原因第一項、同第二項記載の事実は当事者間に争いがない。
してみると、被告は運行供用者として自賠法三条により、原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
二 そこで損害につき判断する。
(一) 入院雑費 二万八、二〇〇円
原告が本件事故により九四日間入院したことは当事者間に争いがない。ところで入院中の日用品購入費等として少くとも一日三〇〇円を要するのが通常であるから、一日三〇〇円として計算すると入院雑費は二万八、二〇〇円となる。
(二) 付添費 二、四〇〇円
成立に争いのない乙第一号証の一、二、同第二、第三号証、証人井上勲の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により九四日間久持病院に入院したが、右期間中の昭和四七年一一月二七日から同年一二月二五日までの二九日間および同月二八日から昭和四八年一月四日までの八日間いずれも職業付添婦が付添い、右付添費は自賠責保険から支払われていること、昭和四七年一二月二六日から同月二七日まで二日間は付添婦が休んだので原告の母が付添つたこと、以上の事実が認められる。原告は原告が小倉記念病院に診察を受けに行つた際付添が必要であつたとして付添費を請求しているが、証人井上勲の証言によるも付添が必要であつたことを認めるに十分ではなく、その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。しかして近親者の付添費としては一日一、二〇〇円と認めるのが相当であるから、付添費は二、四〇〇円となる。
(三) 逸失利益 一六万七、一六〇円
原告が本件事故当時久持病院に勤務していたことは当事者間に争いなく、成立に争いのない甲第八、第九、第一一号証、同乙第四、第六号証、証人中島鵬司の証言により成立の認められる乙第五号証、同人の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により昭和四七年一一月二七日から昭和四八年二月二八日まで入院し、同年三月一日より同月一七日まで通院したため、久持病院を同月末まで欠勤し、同日付で退職したこと、その後同年四月一三日まで歯の治療に通つたのみで、一年間自宅療養し、昭和四九年四月から行橋保養院に勤務するに至つたこと、本件事故による傷害は昭和四八年三月一七日に症状固定し、勤務に差し支えるような後遺症は存しなかつたこと、右久持病院欠勤中の給料、ボーナス合計一〇万四、五八〇円は原告に支払われていること、以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の傷害の程度、治療の経過等に徴すると、原告の本件事故による休業期間は昭和四八年三月末までと認めるのが相当であり、また右期間中の給料、ボーナスは原告に支払われているのであるから、原告の休業による損害は存しないというべきである。
また原告は、本件事故により准看護婦の資格を取得するのが遅れたことによる損害を請求するので、これにつき判断する。
成立に争いのない甲第二号証、証人小川洋一の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時、久持病院に勤める傍ら中津准看護学院に通学していたこと、准看護学院に二年間通学し国家試験に合格すれば准看護婦の資格を取得すること、右国家試験の合格率は九七パーセントで殆んどの者がこれに合格すること、原告も本件事故がなくそのまま准看護学院に通学すれば、昭和四九年四月には准看護婦の資格を取得しえたこと、原告は本件事故による傷害のため中津准看護学院を退学したこと、原告は昭和四八年四月豊前築上医師会准看護学院に入学したが、すぐ退学したこと、昭和四九年四月から行橋保養院に勤務しながら京都准看護学院に通学しており、昭和五一年四月には准看護婦の資格を取得する予定であること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
原告は准看護婦の資格取得が二年間遅れたとして二年分の逸失利益を主張しているが、右認定の事実並びに前記認定の原告の傷害の程度、治療の経過等を併せ考えると、准看護婦資格取得が遅れたことによる逸失利益は一年間について認めるのが相当である。しかして証人小川洋一の証言により成立の認められる甲第五、第六号証、同人の証言によれば、原告が昭和四九年四月准看護婦になつた場合少くとも月額六万一、三〇〇円の収入を得られたこと、原告は同月から行橋保養院において月額四万七、三七〇円の収入を得ていることが認められるのであるから原告の右逸失利益は一六万七、一六〇円となる。
(61300-47370)×12=167,160
(四) 慰藉料 六〇万円
原告は本件事故により入院九四日、通院実日数四三日間を要する傷害を負い、そのため准看護婦の資格取得が遅れたものであつて、これら諸般の事情を考慮すると、原告の蒙つた精神的苦痛を金銭で慰藉するには金六〇万円を相当とする。
(五) 損害の填補 五二万四、七〇〇円
原告が自賠責保険から合計五二万四、七〇〇円の支払をうけたことは当事者間に争いがないからこれを控除すると原告の損害は二七万三、〇六〇円となる。
(六) 弁護士費用 六万円
証人井上勲の証言によれば、原告は本件訴訟を原告代理人に委任し、着手金として一〇万円支払い、謝金として勝訴額の一割を支払う旨約束したことが認められる。しかしながら本件事件の難易、前記請求認容額その他本件に顕われた一切の事情を勘案すると、弁護士費用として六万円被告に負担させるのが相当である。
三 以上の次第であるから、被告は原告に対し金三三万三、〇六〇円およびこれに対する不法行為の日たる昭和四七年一一月二七日以降右支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。
四 よつて原告の本訴請求金員中、右義務の履行を求める限度でこれを正当として認容し、その余の部分については失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 将積良子)